室内VS屋外 出力の低下を最小限に抑えるコツ
室内トレーナーと屋外ライドとの重要な差は、一定の出力をどれだけ多く必要とするかです。屋外では、地形や風、速度の変化によって生じる出力の変動が常に存在します。これらの変化は屋外では当然のことであり、選手も特に気の止めることなくやり過ごします。しかし、室内トレーナーは一定の負荷をかけるものなので、出力の変動は、ほとんどが選手のペダリングの仕方による変化が原因です。屋外で地形の影響を受けるペダリング方法の代わりに、ほぼ一定なペダリングを要求されるため、選手の中にはそれを苦痛に感じる人もいます。設定したワークアウトの負荷を達成するために、出力を増加したくても惰性や下り坂に頼ることができません。屋外でのライドが本質的に優れている訳ではなく、単に異なるということです。タイムトライアル専門の選手の方が、室内練習へスムーズに移行できることが往々にしてありますが、それは他の選手と比べて一定の出力を維持することに慣れているからです。
ワットはワットである考えには変わりはありませんが、室内トレーナーを使う場合は、そのワットを生産するための力の出し方は幾分異なります。室内トレーナー上で一定の出力を維持するには少々ペダリングスタイルの変更が必要であり、つまり、上下死点を押し通すスタイルですが、それには適応が可能です。ただ習得には時間がかかります。練習することでだんだん上達します。室内トレーナーに乗れば乗るほど、上手にトレーニングができるようになります。私が担当する選手の中でも、秋口には屋外と室内の出力に大きな差が見られますが、冬が終わる頃までには、その差はずっと小さくなります。
それでは、屋外トレーニングと比べて、室内でのパワー範囲を別に設定する必要があるのでしょうか?答えはノーです。ワットはワットである、という考えに基づくと、屋外トレーニングと同等な内容を得たければ、室内でのインターバルも同じ出力で行う必要があります。幸い、室内と屋外のパフォーマンスの差を最小限にするためのテクニックがいくつかあります。しかし、室内でいくらか出力の減少が続いても、このワットはワットである、とう考えは持ち続けてください。悪天候にも拘わらず、室内トレーニングを続けたという事実こそが主な成果だと考えましょう。出力が多少低くても、室内トレーナーに乗らないよりはずっとよいはずです。寒さの厳しい屋外で乗るより効果があるかもしれません。こう考えてみるのはどうでしょうか。室内で心拍計だけを使っていた時代のことを思い出してみましょう。出力はもっと低かったはずですが、単に気付かなかっただけなのです。
室内VS屋外 出力の低下を最小限に抑えるコツ
冷静に対処する
環境条件は室内と屋外では大きく異なります。屋外では、常にライダーの周りには風が吹いており、常に優れた冷却効果を発揮します。室内は通常屋外よりも暖かく、扇風機を使用していても室内トレーナーはオーバーヒートに陥りやすいのです。これはパワーロスにつながり、ここで扱う他のどの要素よりも大きなロスになるかもしれません。ある一定のワークアウトの負荷に対する心拍数と主観的な労力は、この温度の高さと冷却不足のために、室内トレーナーでは高くなる傾向があります。周りの環境を涼しくし、身体の周りに多くの風が来るようにすれば(扇風機の設置数を増やす等)、ハードなワークアウトによって発生する熱を効率よく消散させることができます。もう2、3台の扇風機を追加し、窓を開けるだけで、室内トレーナーでの出力容量を増加させることが可能であると分かり、驚くはずです。冷却効果を高めれば、心拍数と主観的な労力も低下し、屋外でのライドにより近くなるでしょう。
水分を補給する
パフォーマンスと温熱調節に与える水分補給の重要性についても論議すべきです。ワークアウトが終わると、室内トレーナーの下に大きな水たまりができていることがありますね。それは汗です。室内でワークアウトを行うと身体はより暖まり、1時間当たりの体液損失量も増加します。体液の損失により体重の1%が失われると、パフォーマンスは低下します。体重の2~3%が失われるまでには、パフォーマンスは10%まで減少する可能性があります。つまり、水分の補給を忘れないことです。室内では補給するべき水分量は屋外でのライドと比べて高くなります(1時間当たりの発汗による水分の損失は1.5リットルにもなります)。もし、脱水状態になるとワークアウトも苦痛になります。
モチベーションと期待の維持
室内ワークアウトに取り組む際、モチベーションは重要な役割を果たします。我々のほとんどは、自転車に乗ることが好きな理由は屋外で過ごすのが楽しいからであり、距離もあっという間に稼ぐことができるからです。室内では同じ壁を何時間も見つめ、ペダルを回してもどこへもたどり着きません。室内でのトレーニングは、その取り組みに対する考え方がパフォーマンスに大きな影響を与えます。
長年のコーチ経験から、私は興味深い事実を発見しました。温暖な気候に住む選手の多くは、室内トレーニングを非常に嫌がり、室内トレーニングをやり遂げるのに苦労しています。これは、冬期の3~4か月の間、トレーニングの80~90%は室内で行わざるを得ない米国北部に住む選手にとっては反対なのです。北方の気候に住む選手は室内トレーナーにより早く順応し、一般的に室内のワークアウトでもより効果を上げることができます。その理由は、彼らは、室内トレーナーでのライドは目的を達成するための手段であり、必要なワークアウトを行うためには、他に多くの選択肢があるわけではないことを理解しているからです。
この室内で何時間も続くトレーニングへのモチベーションを維持するために、できることもあります。音楽を聴いてもよいですね。
あなたが楽しめるのであれば、音楽のジャンルは問いません。映画、テレビ、スポーツ、またはツール7連覇でランスがライバルたちを打ち負かしていくエピソードを観てもよいでしょう。取り組む環境をより楽しいものにすれば、室内トレーナーでのワークアウトももう少し好きになれるでしょう。
室内トレーナーにもっと「実走感」を
室内トレーナーでは、屋外の道路に比べて慣性はずっと少なくなります。高校の物理学を思い出してください。慣性は速度を変化させまいとする物体の抵抗であり、慣性は物体の質量に直接関連しています。屋外ではライダーの体重と自転車の重量により、多くの慣性を得ています。一方の室内トレーナーでは、自転車もライダーの質量も実際には移動せず、代わりにフライホイールの小さな質量を加速させるのに過ぎません。室内トレーナー上では慣性の負荷が小さいので、フライホイールの質量の加速を維持するためには、より継続して力を生産し続けなければなりません。より大きな質量、つまり自転車やライダー自身の重量を加速することから得られる恩恵は得られないのです。これは室内トレーナーでペダリングを止めると、すぐにフライホイールが減速することからもわかるでしょう。トレーナーは一定の出力を要求するため、ペダリングストローク中、上下死点を通過する際にも踏み切る必要があります。これが室内トレーナーで同じワット数を生産するのにより辛く感じる理由の一つです。
ライダー達が室内トレーナーについて話す際、よく「実走感」のことが話題に上ります。室内トレーナーを屋外の実走に近づけるためにメーカーが取る方法の一つは、フライホイールの重量を調整することです。フライホイールが重くなれば慣性が強くなり、慣性の負荷が大きくなれば、よりよい実走感が得られます。ジムでよく見る独立型のエアロバイクやサイクルオプス社のPT300などは、室内トレーナーより重いフライホイールを搭載していますが、それでもライダーと自転車の重さに匹敵するものではありません。その他には、コロラド州のコロラドスプリングスにあるCTSの施設で使用されているコンピュトレーナーのように、機械的にブレーキのついたトレーナーもあり、それは実走感と言う点ではさらに向上しています。
まとめ
これまでに、室内トレーナーと屋外でのワークアウトを色々と比較検討してきました。順応できる要素もあるし、工夫して管理が可能な要素もあります。問題は、そもそも室内トレーナーでのワークアウトは辛いのか?ということですが、答えは、多分、と言ったところでしょう。下り坂も、自分がペダルを止めない限り、休憩もありません。しかし、室内では1時間当たりのペダリング量はより多く達成可能です。つまり、惰性で進む時間を削ることにより、高い平均ワット数を達成することができるのです。この結果、室内では1時間当たりの消費エネルギーの総キロジュール数が高くなります。つまり、室内でトレーニングを行う場合は1時間当たり、数カロリーは多く消費できるわけです。
結局、室内トレーナーでのワークアウト時間は減らすべきなのでしょうか?クリス?カーマイケルのガイドラインでは、ワークアウト全体の時間の20%を減らして(しかし、インターバルの時間はそのまま)応用していましたが、最近では、様々なトレーニングスタイルに合わせて調整しています。我々のほとんどは、仕事、家族、そして天候に合わせてトレーニングを組み込んでいるので、トレーニングに費やせる時間は限られています。時間のないサイクリストや1週間に 8~10時間以下しか練習できない選手は、室内の練習だからと言ってワークアウトの時間を減らす必要はないでしょう。もし、あなたが回復時間も限られている中でワークアウトの負荷を少し増加させる事にも気を使って調整するような、大量にトレーニングを行うタイプだとしたら、室内トレーナーでのワークアウトで使う総キロジュール量もモニターしておくことが重要になります。そうした場合には、屋外ライドに比べて、室内トレーナーの方が設定したキロジュールのゴールに速く到達することでしょう。
冬場に室内トレーナーでのワークアウトを行う上での私のアドバイスは、いい扇風機を1つか2つ手に入れ、音楽やビデオなどでよい練習環境を整えて取り組むことです。特に室内トレーナーを行うための実地テストや別途トレーニングの範囲を設定することは通常必要ありません。屋外で得られる数値に匹敵するまでには時間がかかるかもしれませんが、それまではできることを行えばよいでしょう。恐らく、熱が最も大きな要因であることを覚えておいてください。室内トレーナーの代わりに、夏のひどく暑い日に行う屋外ライドのことを考えてみましょう。きっとパワー値は低いはずです。しかし、だからといってその日のために閾値のパワーやトレーニングの範囲を調整したりはしませんよね。外気温がとても高い場合によいパフォーマンスを発揮したければ、冷却に専念するべきだと知っていますから。室内でのワークアウトにも同じ事が言えます。